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無理のしない選択を。血圧と麻酔の安心な関係について

●「せっかく来たのに」という、そのお気持ちに寄り添って

「よし、今日こそ虫歯を治すぞ!」
「頑張って今日歯を抜こう!!」

そう決心して歯科医院の扉をあけるのは
とても勇気がいることですよね。
お仕事の合間に来院されたり、
家事や育児を一区切りさせて、
ようやく作った貴重な時間。

それなのに、診療室で血圧を測ってみると・・・
院長からこんな一言。

「血圧が高いようですね・・
無理せず処置は日を改めましょう。」

このように言われると、きっと
「どうして?」
「きちんと薬飲んでるのに・・」
「わざわざ時間取ったのに・・」
という、やり場のない気持ちになる方もいらっしゃることでしょう。

中には、
「自分の体調管理が悪いのかな・・」
と自分を責めてしまう方もいらっしゃいます。

まず最初にお伝えしたいのは、
血圧が高くて治療が延期になるのは、
“決してあなたのせいではない”
ということ。

そして、その判断は、
私たち歯科医師が、
患者さんのこれからの生活や健康を
心から大切に想っているからです。

私たちからの「愛のブレーキ」なのだということを、
詳しくお話いたします。
 
●なぜ歯医者さんで血圧を測るの??

「歯を削るだけなのに、なんで血圧が必要なの?」
そう思われるかもしれません。
実は、
歯科診療(特に麻酔を伴う処置)と血圧には、
切っても切れない深い関係があります。

●歯科治療で使う麻酔(局所麻酔)の意外な役割

深い虫歯を取り除いたり、神経を取る処置、歯を抜くなどの外科処置には、
痛みを感じにくくするための「局所麻酔」が欠かせません。
この麻酔にの中には、多くの場合「エピネフリン(アドレナリン)」という成分が含まれています。

エピネフリンの役割は、
①麻酔をしっかり効かせる
麻酔が効く場所に留まりやすくなるため、痛みを感じにくい

②効果を長持ちさせる
麻酔がすぐ流れてしまわないので、
治療中ずっと安定して効いてくれる

③出血を少なくする
血の流れを少し緩やかにすることで、
出血を抑え、安全に治療が出来る

このように、痛みを感じさせないためにはとても頼もしい存在ですが、
一方で一時的に血圧を上昇させ、
心拍数を増やすという性質
も持っています。

もし、最初から血圧が高い状態で麻酔を使ってしまうと、
血圧がさらに跳ね上がり、体が大きな負担をかけてしまうかもしれません。

私たちは、歯の治療以上に、
患者さんの心臓や脳の健康を最優先に考えたいのです。
●「あなたに合わせた麻酔」を準備しています

「血圧が高いと、もう治療してもらえないの?」
と不安になることはありません。
私たちは、患者さん一人ひとりの体調やこれまでの病歴に合わせて、
麻酔の種類を使い分けています。

血圧が高い方には、体に優しい麻酔を選んでいます。
そのほかにも、体調や持病に合わせて、
それぞれの麻酔の特性を見極めながら適切に使い分けています。

「この方にはどの麻酔が一番安全か?」
私たちは常にそれを考え、準備しています。

それでも
「今日はお休みにしましょう」とお伝えするのは、
どんなに麻酔の種類を工夫しても、
その日の患者さんの体のコンディションが
「安全圏」を超えていると判断した時です。

●「お薬飲んでいるのに高い」のは、
体が環境に敏感に反応している証拠


「毎日欠かさず血圧の薬を飲んでいるのに、
どうして歯医者に来ると高くなるの??」

と不思議に思う方も多いと思います。
実は、これはとても多くの患者さんに共通する出来事です。

医学的には、「白衣性高血圧」といいますが、
これは病気というよりも、
「歯医者という非日常の環境に対し、
体が正常に、そして敏感に反応している状態」

と言えます。

歯医者さんの独特の音、薬品のにおい・・・
そして、
「痛いかもしれない・・・」
「何されるのかな・・・」
という無意識の緊張感。

こうした刺激を感じると、
体の中では
「さぁ、がんばるぞ!」
「今日こそはちりょうしてもらうぞ!」
というスイッチ(交感神経)が入ってしまいます。
すると、血管がキュッと締まり、
血圧を上げるホルモンが分泌されます。

たとえお薬を飲んでいても、
この「環境への反応」が持つ力がの方が
勝ってしまうことがあるのです。


それは、
あなたがそれだけ真剣に自分の体と向き合っている証拠であり、
外部の刺激に対して体が素直に反応しているということ。

決して、あなたの健康管理に問題があるわけではありません。


 
●処置を延期する「勇気」と、その先の安心
血圧が高いまま、無理に神経の処置や抜歯などの外科処置を行うと、
以下のようなリスクが考えられます。

・治療中の気分の悪化:
血圧が高いと、治療した部位の血が止まりにくくなり、
自宅に帰ってから不安な思いをさせてしまうかもしれません。

・重大な偶発症の予防:
非常に稀ではありますが、血圧の急上昇が
心臓や脳のトラブルにつながることを防ぐ必要があります。


「今日やめておきましょう」という言葉は、
私たちにとっても、患者さんにとっても、
少し残念な言葉かもしれません。
でもその一日をお休みにすることで、
将来起こり得たかもしれない大きなトラブルを
未然に防いでいる
のです。
●「かかりつけの先生への手紙」に込めた願い
血圧が高い状態が続く場合、
私たちは内科などの主治医の先生へ「照会状(お手紙)」を
書かせていただくことがあります。

「歯医者へ行っただけなのに、内科にまで行くなんて面倒・・」
と感じるかもしれません。
でも、これはあなたがこれから安心して
歯医者の治療を続けていくための
「安全なルート作り」なのです。

お手紙を通じて、
「この患者さんは、
歯科で治療の時にこれくらいの血圧になりますが、
お薬の調整は必要ですか?」

「歯科用の麻酔を使用する予定ですが、
主治医の先生からみて注意点はありますか?」

といった情報をプロ同士で共有します。

医科と歯科が連携して手を取り合うことで、
あなたは「自分にぴったりの、一番安全な治療」を
受けられるようになります。

これは、私たちがあなたを一人ぼっちにせず、
チームで守っていくための大切なステップなのです。

●私たちは「チーム」であなたを支えます
「こんな小さな不安、話していいのかな?」
「血圧が高いって言われて、なんだか申し訳ないな・・」

そんな時は、どうかその気持ちをそのまま私たちに届けてください。
歯医者は、歯科医師一人で成り立っているわけではありません。

受付・コーディネーター:「今日はちょっと緊張してます」
そんな一言をぜひ受付で教えてください。
患者さんの気持ちに寄り添い、リラックスできる環境作りなどに努めます。

歯科衛生士:「実は麻酔が苦手で・・」「昨日あまり寝れなくて・・」
クリーニングの際でも、お気軽にお話しください。
私たちは一番近くで患者さんの表情を見守り、
必要があれば院長を連携します。

院長:安全を判断する専門家として、
患者さんの体の声と心の声の両方に耳を傾けます。

誰に話していただいても構いません。
渋田歯科クリニックは、
全員で情報を共有し、
「患者さんにとってもベスト」を一緒に考えます
患者さんの不安を一つひとつ取り除いていくことも、
私たちの立派な「治療」のひとつなのです。


おわりに:一生、健やかな笑顔で過ごしていただくために
歯医者は、ただ「悪いところを削る場所」ではありません。
患者さんが一生、自分の歯で美味しい食べ物を食べ、
健康な毎日を送り続けるためのパートナーでありたいと願っています。

血圧を測ることも、
時には治療をお休みすることも、
すべては
「あなたが笑顔で、無事に自宅に帰ること」を
一番に考えてのこと。

もし今日、処置が出来なかったとしても、
それは失敗ではありません。

「自分の体をもっと大切にするためのほんのちょっとの休憩時間」
だと思って、ゆったりした気持ちで過ごしてください。

不安な時はいつでもご相談ください。


●参考文献
日本歯科麻酔学会:歯科治療中の全身偶発症への対応指針
日本高血圧学会:高血圧治療のガイドライン2019
日本歯科医師会:歯とお口の健康Q&A/全身疾患がある場合の歯科治療

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