「唇にヘルペスが・・・」
知ってほしい歯科医院の“意外な”役割
「今日クリーニングで予約取っていましたが、
ヘルペスが出来たのでまた今度にします」
歯科医院の受付で、このような電話をいただくことは
決して珍しくありません。
また、口の端(口角)がパキっと割れてしまう口角炎。
「口が切れたので今日行ったら迷惑ですよね?」
と気を遣ってキャンセルを希望される方もいらっしゃいます。
患者さんのその気遣い、本当に心が痛みます。
ですが、私たち歯科医院に務めるスタッフがその電話を受けた時、
心の中でこう思っています。
「ああ、もったいない!!
むしろ今、その状態だからこそ来てほしいのに!!」
実は、歯科医院で「唇のトラブル」を診察すると伝えると、
多くの方が、
「え?!歯医者でヘルペスを診てくれるの?」
と驚かれます。
今回は、意外と知らない“歯科と唇の病気”の深い関係について、
じっくりとお話させていただきます。
●歯科は「歯」だけを診る場所ではない
まず知っていただきたいのは、
僕たち歯科医師の守備範囲です。
歯科医師の免許をもつ僕たちは、大学で6年間、
そしてその後の臨床研修で、
歯のことだけ学んでいるわけではありません。
正式には「口腔外科学」という分野があり、
そこではお口の中だけでなく、
そでに付随する
「アゴ」「頬の粘膜」「舌」「唇」まで、
すべてが診察・治療の対象と定義されています。
つまり、
唇のできるヘルペスや口角の切れ、
さらには口内炎や舌の痛みなど、
すべて僕たちは歯科医師の専門分野なのです。
●ケース①:口唇ヘルペスの正体と、歯科ならではの治療
「口唇ヘルペス」は、
単純ヘルペスウィルスというウィルスが原因で起こります。
疲れがたまっていたり、
風邪を引いたり、
免疫力が落ちた時にひょっこり顔を出す
厄介な存在ですよね。
多くの方は「皮膚科に行かなきゃ」と思われますが、
歯科医師は、
「お口周りの専門家」です。
それが単なるヘルペスか、
別の粘膜疾患かを的確に診断し、
必要に応じで抗ウィルス薬の処方を迅速に行えます。
初期段階で専門的な処置を受けることで、
重症化を防げるのが大きなメリットです。
また、患部が痛くて歯磨きが出来ない場合、
プロの手で口腔内を清掃し、清潔に保つことで、
傷口からの二次的な細菌感染を防ぎ、
治癒を早める環境を整えられます。
さらに、特定の場所が再発を繰り返す場合、
歯の研磨や、被せものの調整など、
歯科特有の原因解決ができるのも
歯科ならではの強みです。
●ケース②:口角が切れる「口角炎」の裏に隠れた原因
次に多いのが、
「口角が切れて口が開かないからキャンセルしたい」
というケースです。
これは、単なる乾燥に思われがちですが、
実は、「歯科的な原因」が潜んでいるケースがあります。
なぜ「口の端」が切れるのか?
口角炎にはいくつかのパターンがあります。
1、嚙み合わせの低下
年齢とともに歯がすり減ったり、
合わない入れ歯を使っていたりすると、
お口の「高さ」が低くなります。
すると、口を閉じたときに
口角の部分に深い溝(シワ)ができ、
そこに唾液がたまりやすくなります。
湿った状態が続くと菌(カンジダ菌)が繁殖し、
炎症を起こして切れてしまうのです。
2、ビタミン・鉄分不足
粘膜の健康維持するビタミンB群などが不足すると、
口角が弱くなります。
3、詰め物・被せ物の不適合
お口の中の金属や汚れが刺激となっている場合があります。
歯医者であれば、単に薬を塗る、処方するだけでなく、
なぜ口角が切れやすいのか、という
根本的な原因を、
かみ合わせや入れ歯の適合状態からチェックし、
根本解決を提案することができます。

●「迷惑かも・・」と思う
優しいあなたへ伝えたいこと
患者さんの中には、
「ヘルペスは感染症だから、
歯科医院に行くと先生やスタッフにうつしてしまうのでは?」
と心配される方もいらっしゃいます。
大丈夫です。
ご安心ください。
歯科医院では、
「血液」や「唾液」を介した感染症もリスクを防ぐため、
極めて厳格な衛生管理を日常的に行っています。
B型・C型肝炎やさまざまなウィルス対策として、
標準予防策(スタンダード・プリコーション)を徹底しています。
ヘルペスに対しても、処置ごとにグローブを交換し、
マスクやゴーグルを着用するなど、
接触・飛沫感染を防いでいますので、
僕たちが「うつるから困る」と感じることはありません。
むしろ、痛みを抱えながら
「今日はいけません」と
電話をしてくれる患者さんのことが
心配なのです。
●理想的な「予約当日」の対応とは?
もし、予約当日に唇のトラブルに気づいたら、
キャンセルではなく、
まずはこう相談してみてください。
「今日唇にヘルペスが出来てしまって、口を開けるのが辛いです。
クリーニングを予定していましたが、
今日はヘルペスの処置に変更してもらえますか?」
このお電話一本で、
僕たちは準備を整えます。
「今日は唇の痛みを止める処置を優先しよう。
お薬を出して、落ち着いてからのクリーニングにしよう」
といった具合に。
その時の患者さんに最適な治療内容へ
柔軟に切り替えることができます。
●まとめ:お口周りの「一番身近な相談窓口」として
歯医者は、単に「虫歯が出来たら行く場所」ではありません。
食事を楽しみ、
会話を楽しみ、
笑顔を作るための「お口のトータルケアセンター」です。
・唇が腫れた
・口の端が切れて痛い
・舌に違和感がある
・口内炎が治らない
これらはすべて、
僕たちが日々向き合っている大切な診療内容です。
「こんなことで診てもらえるのかな?」
という迷いは必要ありません。
むしろ、お口周りのトラブルを早期に解決することは、
お口の中の環境を整えることと同じくらい重要なのです。
次のお約束の時、もし唇に何かあっても
どうぞキャンセルせずにそのままの状態でいらしてください。
「びっくりした!歯医者さんってこんなこともしてくれるんだ!」
そんな驚きを安心を、
一人でも多くの患者さんにお届けできることが、
僕たち医療従事者の喜びです。
あなたの
「お口のパートナー」として、
いつでも頼りにしてください!
参考文献
・厚生労働省:歯科医業の範囲について
・日本口腔外科学会:口腔外科が扱う疾患
・日本補綴歯科学会:義歯と口内炎の関係
・日本口腔感染症学会:口腔カンジダ症診療ガイドライン
・公益社団法人 日本口腔外科学会:「お口の病気:口唇ヘルペス」
・eーヘルスネット(厚生労働省)「口腔ケア」の項目:お口の粘膜疾患と全身疾患のかかわりについて