せっかく高い費用を時間をかけて作った新しい入れ歯。
「今日からなんでも美味しく食べれる!」
と意気込んで、
大好物のたくあんやステーキを
思い切り噛んでみたら・・・
「痛っ!!」
そんな経験はありませんか?
実は、歯科医師の立場からお伝えすると、
「新しい入れ歯をいれたその日から完璧に使いこなせる」
という方は、
ほとんどいらっしゃいません。
今回は、
新しい入れ歯を作ったばかりの方、
抜いた部分に歯を足すなど入れ歯の修理をした方、
そしてこれから作る予定の方へ向けて、
「なぜ、入れ歯はすぐ使えないのか」
「なぜ、一週間後の調整が大切なのか」
を詳しくお話しします。
むしろ、
最初の一週間は
「違和感や痛みとの闘い」
といっても過言ではないのです。
1、「新しい入れ歯」=「新しい革靴」という事実
よく「入れ歯をいれたら、その日のうちに固い漬物もバリバリ食べられる」
と思っている方が多いですが、
それは少し誤解があります。
新しい入れ歯を使い始めるには、
例えるなら
「新品の硬い革靴を履いて、いきなりフルマラソンを走る」
ようなものです。
見た目はピカピカでサイズも合っているはずですが、
履いてすぐ全力疾走すると靴ズレを起こしますよね?
●なぜ馴染むのに時間がかかるの?
・歯茎は粘膜である
歯茎は、もともと「噛む力」を
直接受け止めるための組織ではありません。
そこに入れ歯という
「硬いプラスチックの塊」
を乗せて圧力をかけるわけですから、
最初は粘膜が悲鳴をあげて当然です。
・形状の変化
入れ歯の型取りをして精密に作ったつもりでも、
お口の中は常に動いて、変化しています。
喋るとき、
飲み込むとき、
噛むとき。
それぞれの動きの変化に完璧にフィットするまでには、
実際に使ってみて
「当たる場所」を見極める必要があるのです。
・筋肉の慣れ
唇や頬の筋肉、
舌の動きも、
新しい入れ歯の形に適応するまでに
時間がかかります。
2、絶対にやってはいけない!「いきなり固いもの」
「前使っていた入れ歯でなんでも食べられたから!」と、
新しい入れ歯を入れたその日に
固いものを食べるのは禁物です。
〈慣らし運転のステップ〉
初めて入れ歯を入れる方も、
長年入れ歯を使っていて新しい入れ歯に変えた方も、
以下のステップで慣らしていきましょう。
①まずは「水分・やわらかいもの」から
おかゆ、豆腐、煮込みうどん、白身魚など、
あまり力を入れなくても嚙み切れるものから食べ始めてください。
②一口を小さく
大きな塊を頬張ると、
入れ歯が不安定になりやすく、
歯茎を傷つける原因になります。
③左右均等に噛む
片側だけで噛むと入れ歯が傾き、
強い痛みが出やすくなります。
意識して両奥歯でゆっくり噛みましょう。
自分の歯が前歯にだけ残っている場合、
無意識に自分の歯で噛んでしまいます。
前で強い力で噛むと、
入れ歯の破損の原因になります。
両側の奥歯で噛む意識をすることで、
入れ歯の破損を防ぐことができます。
「固い漬物」や「お餅」「イカ」などは、
数回の調整を経て、
入れ歯がしっかり歯茎に馴染んでからの
お楽しみにとっておいてください。
3、なぜ「一週間後の調整」が最も重要なのか
歯科医院では、
入れ歯をお渡しするときに、
「来週、調整に来てくださいね」とお伝えします。
これには、きちんと理由があります。
〈痛みの原因「傷」のチェック〉
どんなに精密に作っても、
数日使うと、
必ずと言っていいほど
「強く当たるところ」が出てきます。
そこが赤く腫れたり、
口内炎のような傷(圧迫痕)になったりします。
一週間ほど使うことで、
「どこが、どう痛むのか」
という証拠がお口に現れるのです。
この証拠を見て入れ歯の調整を行うことで、
初めてあなた専用の
「痛くない入れ歯」へ進化します。
〈噛み合わせの微調整〉
お口の周りの筋肉が新しい入れ歯に慣れてくると、
最初の日とは微妙に噛み合わせの位置が
変わることがあります。
一週間後の調整では、
この「動的な噛み合わせ」を整えます。
〈精神的な安心感〉
“痛いけれど、来週歯医者に行けば直してもらえる!”
という安心感は、
入れ歯に慣れるための大きな助けになります
4、もし「痛くて我慢できない」ときは?
次の予約まで一週間あるけれど、
どうしても痛くて耐えられない・・・・
そんな時の対処法をお伝えします。
・無理に使い続けない
激痛があるのに無理に使うと、
歯茎の傷が深くなり、
治るまでに入れ歯が使えなくなってしまいます。
・一旦外してOK
どうしても痛いときは
外して歯茎を休ませてください。
ただし、来院する直前の数時間は
装着していただくのが理想です。
(どこが強く当たっているのか明確にするためです)
・まずは電話で相談
「一週間も待てない!」という場合は、
遠慮なく歯科医院に電話してください。
予約外で対応してもらえる場合があります。
5、まとめ:入れ歯は「歯科医師と一緒に育てていくもの」
新しい入れ歯は、
完成した日が「ゴール」ではありません。
そこから調整を何度か繰り返し、
自分の身体の一部にしていく「スタート」なのです。
※覚えておいてほしいポイント※
・新しい入れ歯は、すぐには使いこなせないのが普通
・食事に注意⚠まずは柔らかいものから少しづつチャレンジ!
・「一週間後の調整」で、痛みや違和感のほとんどが解決する
・痛いときは無理しない。お電話でご相談ください。
「せっかく作ったのに合わない・・・」
と落ち込む必要はありません。
一歩ずつ、
歯科医師と一緒に
「美味しく食べられる喜び」を
取り戻していきましょう!
次回来院時にお聞かせください。
一週間後の調整では、ぜひ以下のことを教えてください。
・どこが一番痛むのか(右奥、前歯の裏、など)
・どんな時に外れやすいか
・何を食べた時に違和感があったか
あなたのその声が、
あなた専用の入れ歯を完成させる最後のパーツになります。
参考文献
・e‐ヘルスネット(厚生労働省)「義歯(入れ歯)の清掃・手入れ」
・日本歯科医学会「義歯(入れ歯)に関するQ&A」
・日本補綴歯科学会「有床義歯新製後の調整ガイドライン」
・日本老年歯科医学会診療指針
・公益社団法人日本歯科医師会「テーマパーク8020」